科学的介護とは「特別養護老人ホームながまち荘の取組」2
(写真上:同組織病院と連携し、必要時嚥下力評価し、その方にあったとろみ剤の量検討など行う。
(写真下:ホーム内を歩くと、そこここで好きな活動をする方に出会う。写真は注連縄造りの仲良しお二人.陶芸のコーナーもあり、地域の高齢者に開放、販売経路も検討し、地域住民の方の生きがいつくりも試みている)
●12月28日「科学的介護」のながまち荘理念に引かれて再びお邪魔し、会田るみ介護職主任に現場の実践をうかがった。(以下会田氏のお話)
「水分摂取、栄養・食事、排泄、活動はそれぞれ別のものではなく、みなつながっている。特に水分の充足は大切で、スムースな排泄はもちろんだが、覚醒状態にもとても影響が大きく、実際に多くの方が生き生きとした表情になってくる。必要に応じ医療と連携し血液検査の結果で脱水傾向の程度をスクリーニングし、必要水分量をお一人お一人勘案している。浮腫の状況や体重変化にも気をつけている。」
「水分の充足→起きていただく→スムースな排便→食事摂取量増→栄養面改善(血中アルブミン値改善)→活気が出る・活動性・歩行向上とすべてが好循環になってくる。歩くことで、表情も良くなり、結果が出ることは私達のやりがいになっている。胃ろう装着で入所された方でも、経口摂取への支援を行ったところ3年ぶりに食べられるようになった方がいて、『私に食べさせてくれてありがとう』と言ってくれたこと、会話できるまでお口の機能も回復したことは忘れられない」
「排便に下剤は極力使用せず、食物繊維ファイバーや乳酸菌補助食品の摂取を工夫している。食事量、体重、血液検査で栄養面に課題のある方には、栄養士と連携し補助食品も準備。そうして体調が良くなると、認知症の方の周辺症状も軽減してくる。」
「併せて、口腔ケアやお口の体操、マッサージによる口腔機能向上も大切で、歯科衛生士と連携して行っている。口腔の状態が良くなると、唾液の性状も変化、きれいになってくる。そのタイミングで少しずつとろみをつけた水分の摂取から開始。本格的な経口摂取は(同組織)病院でのVF(嚥下内視鏡)での評価を受けてから開始。やる気を引き出し、その方のお好きなもの、例えばソフトクリームを食べに行きましょうなど外出イベントとからめて目標を持ち声をかけたりもしている」
「食べられる、体力が付く、その次は歩行へのリハビリ。まずは起きていただくところから、施設内PTと連携して頚部の柔軟性やポジショニングを」
●ながまち荘の科学的介護とは「医療と連携しながら検査結果などの根拠を基に、又、日常生活における各種データ(排泄、水分、食事摂取)を個別に読み解き、水分摂取、低栄養予防・改善、排泄の自立、歩行や趣味活動などの活動支援まで一連の流れとしてその方にあったオーダーメイドで取り組み、結果生活の自立をひきだしていること」であった。又週1回施設内多職種が集う「自立支援検討会」を行い、かなりシビアに実践状況を評価しあい、次に展開しているという。その成果は、ホーム内を歩くと、そこここにいきいきとした居住者の皆さまや職員の方がおられ、歩いている方も車いすの方も満面の笑みを返してくださる事からもうかがえる。玄関を入ったときから、あたたかい空気が満ちている。
●医療分野では今、EBM(科学的根拠に基ずく医療)だけでなく、NBM(物語(その方のこれまでの人生)に基ずく医療)も大切にするべきだと言われてきている。片や介護分野では、ながまち荘のような科学的根拠に基ずいてケアを提供しようとの動きに期待が集まっている。医療と介護が近づきつつあると感じさせる今回のお話であった。 (T)
科学的介護とは「特別養護老人ホームながまち荘の取組」1
●山形市の特別養護老人ホームながまち荘(施設長:峯田幸悦氏)では、「自立支援介護・人間尊重・地域福祉」を理念に掲げるだけでなく、実際にさまざまなユニークな取り組みをしていることで、知る人ぞ知る特養ホームである。その中でも特に目を引くのが「ながまち荘は科学的介護拠点をめざす」という文言であるが、「科学的介護」とは一体どんな介護なのか?!介護職の離職に不安が増すこの時代、「科学的介護」とは、ずいぶん魅力的な言葉であり、介護職を目指す人の心もつかむであろうことが想像できる。では現場で、科学的介護とはどのように展開され、成果を上げているのか?非常に興味深く、お話をうかがいにおじゃました。
●まずは、施設の全般的な取り組みについて、生活相談員の手塚敬一郎氏(社会福祉士)にうかがった。ながまち荘の基本的な方向性の核となっているのは、峯田施設長の目指す「自立支援介護」である。具体的には、まず排泄の自立。ターミナルであっても「トイレに行きたい」「行ける状態である」方には、積極的にトイレ移動を援助する。それが、最期までその方の尊厳を守ることになるという考え方。(在宅でも、ガン末期であっても亡くなる前日までトイレでの排泄を望まれ、家族と共に援助させていただいた方を思い出した)。ながまち荘は、平成26年に全国老人福祉施設協議会から、厳しい条件をクリアして「おむつ0達成施設証明」を拝受している。その背景には、介護職を中心に施設内多職種が連携して、食や排泄の自立に取り組む姿勢と具体的な方法論とスキルがある。「精神論的ケアではなく根拠あるケア、誰がやっても同じ結果を出せる標準化されたケア」それが、ながまち荘のめざす科学的介護であるという。
●その具体的な方法・スキル、施設内での展開を主任介護職員の会田るみ氏(介護福祉士:写真上右)にうかがったので、次便でお届けしたい。 (T)
拡大ミニ講座「医療と生活をつなぐ情報共有を考える」
●12月14日 標記研修会実施。講師:山形市基幹型地域包括支援センター 保健師 青山明子氏
●連携室ポピーと基幹型包括支援センター(山形市社会福祉協議会内)との協働で、市内医療機関からの退院時サマリー、退院時のケアマネジャー聴取情報内容の現状を分析してきました。その結果、重要だが記載が少なく、かつケアマネジャーの聞き取り様式にも少ない情報項目として、『退院時指導内容』『退院時バイタルサイン』『患者・家族の希望』『退院後の医療の支援体制』であることがわかりました。退院後の市民の生活の安定のために、何を情報共有しなければならないか、医療機関・地域双方で検討していく今回は第一歩です。
●(成功事例)等を基にした意見交換会やワーキンググループへつなげていっては?など参加者からの意見も頂戴しております。
●青山氏講演よりキーワード
『「自分が活用できる情報」「相手に活用してほしい情報」それを知ることで情報共有が効果的に双方の思いを無理なく市民へつなげる』
地域の事業所訪問「デイサービスけやきの森:認知症対応型通所介護」
(写真上:利用者さんと共に作ったクリスマスリース用のキャンドル。けやきの森ではアートセラピーとして塗り絵や作品つくりにも取り組んでいるが、子供だましでない、達成感につながる作品造りをめざしている。利用者さんの励みになるよう出版社の塗り絵コンテストへの応募を続けていて、室内に飾られた作品の完成度はとても高い。)(写真右下後方:管理者の高橋かほりさん)
(写真下:今日のアクティビティはイカ釣りゲーム。材料もスタッフと利用者さんが共に作成。順位競争を取り入れ、やる気を引き出す。ゲームに集中する皆さんには、笑顔があふれている。活性化になっていることはまちがいない)
・12月9日、認知症対応型通所介護事業所「けやきの森」におじゃまし、管理者(代表取締役、施設長)の高橋かほりさんにお話をうかがった。ポピー交流会の場で、「認知症対応型通所介護からも、医療につなげる必要のある生活情報の提供を医療機関につなぐ努力をしている」との言葉をおききしたことが訪問のきっかけである。けやきの森では、支援のプロセスとしてまず認知力や障害の様相を徹底的にアセスメントするという。問題行動と捉えられれがちな言動も、「失認や失行あるいは失語が原因だったりする。そこをきちんとアセスメントして接し方や対応を工夫することで、家族の負担になっていた言動が改善されたりする。」「又、眠っている能力を活性化するためにさまざまなアプローチをしているが、何事も本人参加、完成度高く、おもしろくをモットーとしている。認知力の回復、低下予防、感染予防には栄養面からも支援、栄養士も配置し青魚、葉酸、ターメリック、大豆蛋白、豚肉の摂取に配慮している」とのこと。うかがった当日のおやつは手作りのおいしそうなスイートポテトが準備されていた。
・高橋さんが介護に携わるようになったのは、認知症のお姑様の介護の経験から。看取られた後に「在宅で困難を感じておられる方に何かできるかもしれない」との思いにいたり、結婚まではOLだった高橋さんだが、それからヘルパー資格、介護福祉士資格をとり、介護事業所で経験を積み、施設管理者も経験された。その後周りの方の進めもあり、現事業所を立ち上げて5年になる。今では地域からも認知症ケアで一目置かれる存在で、地域包括支援センターからも「認知力の低下が一過性のものか見極めて欲しい方がいる」などの相談もあるとのこと。介護職員の教育にも力を入れ、職員定着率も高い。皆さんいきいきと働いていらっしゃる印象。
・高橋さんの言葉:「理想と現実のギャップはあってはならない。あなたのメンタルは私がみます!という気持ちでやっている。」から、現場実践者の信念を感じました。