ポピーインタビュー Vol.5 高橋邦之医師 (高橋胃腸科内科医院 古舘診療所・飯塚診療所 所長)
今回は、住民サロンや地域の多職種から「私たちの地域の先生」としてしばしば御名前をお聞きする高橋邦之先生にお話をうかがいました。先生は前回インタビューの山川淳司氏が管理運営する小規模特養、小規模多機能の理事長でもあります。
高)高橋内科胃腸科は曾祖父の頃、明治から続く医院でした。当時は当院以外の診療所も周囲にはなく、代々地域の方から頼りにされていました。私は祖父から往診の話を聞いて育ちました。当時は夜も真夜中も、24時間365日、呼ばれればどこへでも行きました。往診が普通の診療スタイルだったようです。雪の日に作谷沢までソリで往診に行ったという話を聞きました。ソリを引いてくださった方には御礼にお風呂を沸かし、食事やお酒など振舞ったそうです。一方、自分は学校で「おい!高橋!胃腸は内科(異常はないか)!?」とからかわれることもあり、医者の息子ということが本当に嫌でした。医学部に進学したときも周りは自分と同じく跡継ぎだから仕方なくという人が多くいました。ですから、きっかけといえば「あとを継がなければならなかったこと」でしょうか。はじめは仕方なく医師を志しました。
ポ)昔の山形らしいエピソードですね。本心は医師になりたくなかったとのことですが、その後、お気持ちの変化はありましたか?
高)愛知県がんセンター中央にいた頃は膵臓病に情熱を注ぎました。ずっと病院に勤務していたかったのですが、後を継がなければならなくなり、仕方ないと腹をくくりました。10年位前に山形に戻り開業しました。すると、自分が小学校のときから知っている飴玉やみかんをくれた近所の方、当時は60歳か70歳くらいだった方が、90歳になって以前と変わらず診察に来ているのです。その姿を見たときに、なんとも感慨深く、込み上げるものを感じました。また、自分の母親の世代だった方も60代~70代になっており、同級生の母親ががんになり、私が診る、ということもありました。地域の人々の生活と時間の中にこの診療所があるということを感じます。「しっかり診ないといけない」と気が引き締まる思いです。気づくと、聴診器も勤務医の時よりグッと力を入れて聴いているんですよ(笑)それに、開業してからは、患者さんに聞くことも変わりました。勤務医時代は「病気を診ている」といった感じで、今思えば機械的だったような気もします。今は患者さんに「お子さん何歳になったの?」「息子さんどこに勤めたの?」とその人を通して生活や背景を聞くようになりました。「人間を診ている」ということを実感しますね。今はこの仕事が好きです。
ポ)先生は小規模特別養護老人ホームや小規模多機能など地域密着型介護サービスを手がけていらっしゃいます。また往診や訪問診療などもこの地域の住民を中心に展開されていらっしゃいます。そこで、先生が地域に密着した在宅医療や介護に力を入れようと思ったきっかけ等がありましたら教えてください。
高)10年位前には在宅看取りができる状況にありませんでした。特に、老老介護でがんで認知症の方は行き場もなく、厳しい状況でした。在宅医療と言っても「絵に書いた餅」。だから認知症でもがんでも看取りできるようにしたいと思い、自分で施設を作りました。ただ、もし10年前が今の状況だったら作っていないと思います。
ポ)それはなぜですか?
高)十何年経ち、今では看護も介護も大きく変わり、大変充実しました。みなさんよく勉強して頑張っています。在宅では訪問看護が24時間ファーストコールで看てくれます。訪問看護と連携する事で電話は半分以下に減りました。介護施設でも看取りが多くなりました。本当に素晴らしい。医師はもっと頑張らないといけないですね。
ポ)看護や介護の充実を感じてくださっているのですね。ありがとうございます。では、今、高橋先生が感じている地域の課題がありましたら教えてください。
高)看護や介護と連携する事で在宅医療も可能ということ。在宅医療をすすめるための看護や介護の活用のしかたを医師が学べるといいと思います。今は医師間の相互サポートやネットワークがないのでそのような仕組みづくりが必要だと思います。
ポ)そのための、何かいい提案やアイデアなどがありましたら教えてください。
前に医師会たよりで白壁先生が提案した「在宅医療センター」はとてもいい提案だと思います。あとは、あくまでも個人的な意見ですが、土日休日当番制の「看取り当番」があると、安心して県外の学会へ行けると思います。まずは、在宅に関心のある医師のネットワークをつくること。そのためにもポピーのことを医師の皆さんにも知ってもらう必要があると思います。
ポ)ありがとうございます。知ってもらえるよう頑張ってまいります。最後に、先生の休日の過ごし方を教えてください。
診療所の他に、週に1回、県立中央病院で膵臓の検査をしたり県立医療大の講師をしたり、なかなか休める時間は取れません。でも、上は10歳から下は4歳まで、男の子2人、女の子2人の父親です。休日は子どもと公園に行って遊んでいます。先日は蔵王温泉でサイクリングしてきました。冬季はスキーにも行きました。今は忙しくて旅行する時間も取れませんがハワイに行きたいですね。
ポ)高橋先生、お忙しいスケジュールの合間にインタビューのお時間を作っていただき、ありがとうございました。看取り当番医制による医師の負担軽減など貴重なご意見を、ポピーの事業にも活かしていければと感じました。
研修報告~ポピー+在宅ケア勉強会合同研修「医師の実践事例から在宅医療を考える」
・9月20日在宅ケア勉強会とポピーの合同研修会が開かれました。今回は、「多職種が交流できる研修会にしたい。そのためにはポピーと合同で」とのケア勉強会世話人からの要望が実り、医師9名をを含む参加者107名が,熱心に意見を交わしました。
・白壁先生からは、独居で認知症があっても本人が望む在宅での最期をチームで支援できた例を含む3事例が報告され、関った訪問看護やオレンジチームからもコメントをもらいました。グループ発表からも「チーム連携」「本人の意志に基づいた」「アドバンスケアプランニング」などの言葉が聞かれ、白壁先生の事例から多くを持ち帰っていただけようです。また、アンケートからは「医師を含む多職種との交流ができて良かった」との声が数多く聞かれました。
・今後も医師の事例報告からの学びの場を企画していく予定です。
調剤薬局・居宅介護支援事業所連携勉強会(主催:地域包括支援センターなでしこ)
●9月7日(金)地域包括支援センターなでしこの主催で標記勉強会に参加させていただきました。参加者は薬剤師10数名含むケアマネジャー等30数名。自己紹介として設定された「最近食べたおいしいもの紹介」で一気にアイスブレイクし、各グループ笑いの絶えない情報交換となりました。笑いの中にも、しっかり薬剤師さんと顔の見える関係ができ、かつ「かかりつけ薬剤師とは」などなどたくさんの情報を持ち帰られたのではないかと思います。
●筆者のグループでも、薬剤師の方から、「処方を受けている関係がなくとも、何か相談したい、知りたい」ということがあれば遠慮なく連絡してもらってよい。そういう関係をもっててもらうことが大事」との心強い言葉に、名刺の交換が熱く交わされていました。
●医療・介護連携を推進する当室にとっても、なでしこ包括の「顔の見える関係つくり」の上手さに、学ばされた勉強会でした。
●かかりつけ薬剤師について知りたい方は下記日本薬剤師会のサイト~ご覧下さい。
http://www.nichiyaku.or.jp/kakaritsuke/
山形市医師会たより~「猛暑に雑感、地域のことなど」(岡部健二医師:市医師会副会長)
●地域包括ケアシステムについてのわかりやすいコメントや、市内地域包括支援センター活動への理解など、岡部先生のユーモアをちりばめながら綴られています。地域関係機関にとっても励みとなるエッセーを是非ご覧下さい。
●山形市医師会たより第591号(平成30年8月20日)から転載
~事情で、急かされて巻頭言の筆を執ることになったためか構想がどうもまとまらない。猛暑にかまけて、まとまらないままで地域にかかわることなどを雑感として拙文で書き綴ることにした。
地域包括ケアシステムのこと。
これまでの経緯を簡単におさらいして、いま一度、この言葉に込められた意味を考えてみる。目を逸らせないことがらとして、1990年代に入ってからの日本経済の慢性的な不調がある。そして1990年代後半から、伸び続けていた社会保障費を抑制する政策がとられたために、地域にはしだいに「ほころび」が見えはじめるようになったと言われている。これには捉え方の違いや地域差はあるかもしれないが、私が開業をしたのは今から約16年前で、その頃は幸いにも山形市では病診連携などがうまく運用されていたので気がつかずに済んでいたけれども、実はすでに地域医療は時代の潮流に乗ることが求められていた。
その流れの中で登場したのが税と社会保障の一体改革という政策で、生意気な言い方をすれば、消費税を財源として地域医療を守るための機能を強化して、持続可能な安定化により地域に安心をもたらす構想である。そして2013年には社会保障制度改革国民会議の報告書にいたった。すなわち、現在の医療制度が形成されたのは主に1960年代で、その頃と比較をすると長寿化により医療・介護のニーズが明らかに変化したこと、すべての人が等しく必要な医療が受けられる国民皆保険を維持するためには、ニーズをふまえた医療提供体制の変革が必要であること、その際には医療サービスと介護サービスは一体的に考えること、などである。翌2014年には様々な医療・介護関連法の改正法案が成立し、地域包括ケアシステムを構築して効率的で質の高い医療を目指すことが明瞭にされた。
現在、2025年までに達成しなければならない地域医療構想の策定が進められている。2015年の時点で全国に133万床ある病床数は2025年の必要量が119万床になると見込んで、高度急性期、急性期病床は少なくし、回復期病床を増やして調整をするという構想である。実はこの構想ではその時までに介護施設と在宅医療で、約30万人をあらたに受け入れることが前提になっている。すなわち、この構想は二つの大きな柱から成り立つもので、ひとつの柱は病床の再編で、長寿化による医療ニーズの変化に対応するための医療提供体制の改革である。もうひとつの柱は地域包括ケアシステム、すなわち医療と介護を一体的に考えて提供する、住み慣れた地域で生活するための体制である。両者は言わば車輪の両軸で、どちらか一方がこけても反対側がこけてしまう関係にあり、両方がそろってはじめて前に進むことが出来る。車輪の両軸という関係、これは医師会にとっても大切なことであると思う。
手作りの地図のこと。
山形市西の一角をホームグラウンドとして地域医療に携わっている関係で、同地区の包括支援センター注1)が主催する地区ネットワーク会議には毎年出席する。関係者20名ほどの会議は地域の社会資源情報や人口動態などを聞くことが出来るのでうれしい。そこでいつも感心するのは、ロの字に配置したテーブルの中央には地区の地図が設置されていること。うす緑色の紙製の円錐は城山を表していて臨場感も豊かである。学校や医療機関などはイラスト入りの立体パーツで示されている手作り立体地図なので、いかにも地域の集まりという空気にさせる。自己紹介のときに、「私の診療所は地図でそこにあります」と言って地図に立った立体パーツを指すと、参加者に笑みもこぼれて会議も少し和んだ雰囲気になる。
その地図に単独世帯、老老世帯は各々青丸、赤丸で、福祉バスの路線は色分けされた線で示されすぐにわかるようになっている。星印は訪問販売がやってくる地点である。地域の暮らしには買物の問題は切実で、近隣にある施設の協力をお願いして、送迎用バスを利用した買物支援の送り迎えサービスがボランチィア活動として独自にはじめられている。地図の横に立った支援センターのスタッフが、手作りの漫画チックな指示棒を使いながら熱心に解説をする。地図を眺めると地域の中に日の当らない所があれば、それをチェックすることが出来るし、議論をすれば何よりもいろいろな意見がでてくる。一寸した工夫に過ぎないが、支援センタースタッフの粋なアイデアが実に効を奏している。
元気もりもり応援隊のこと。
地域の生活の実情は、純血主義的な頭で考えた地域医療などはまるで虚像であったかのようで、多くの人との繋がりで成り立っているから、いろいろな人のすることや出来事について語り合ってみなければ何も見えてこない。元気もりもり応援隊とはその意味でも面白い企画で興味をそそられるし、耳慣れない言葉かもしれないがネーミングがまた素敵である。包括支援センターがボランティアーを募って出来あがった応援隊で、地区の住民の自立した生活と健康寿命の延伸を目指した活動をしている。どこの地区にもあることだと思っていたら、最近になって、この地域にユニークな取り組みであると教えられた。隊員は薬剤師、作業療法士、理学療法士、管理栄養士、社会福祉士、ロコモ・キャラバンメイトなどと多岐にわたる。隊員が講師やときに演奏者などを務めて1~2時間の教室や演奏会を定期的に開催している。隊員に医師がいないのは、実は活動が午前中に限られているので、私がいまだに入隊を拒んで逃げ回っているからだろうか。
地域の実像とは、本当は文化や伝統と頭の中にある虚像がない交ぜになったもので、地域包括ケアシステムも地域によって多様な発展の仕方をするはずである。それには心なごませる取り組みも必要である。そんな訳で、応援隊にはがんばれとエールは送っているのだが、恥かしながら、いまだに逃げ回っている。
特別養護老人ホームのこと。
日本人の死因は1位から4位までが順に悪性腫瘍、心疾患、肺炎、脳卒中。今のところ5位は老衰で、近いうちに脳卒中を抜いて4位になるだろうと言われている。ちなみに英国では死因の1位は認知症。この違いは死亡統計手法の異同によることに間違いはなく、わが国でも認知症と死亡診断書に記入することを周知すれば、脳の変性疾患として、その施策の重要性についての認識が深まるであろうという意見もある。
話は替わる。私が配置医師を務める特養注2)では退所される方の81%はお亡くなりになっての退所となる。この特養の死因をみると1位、2位が肺炎と老衰でほぼ同率である。また、33%の方を施設内でお看取りをするが、67%は医療機関にお願いしているのが現状である。死因をみると施設内のお看取りでは老衰;67%、心疾患;8%、悪性腫瘍;5%、肺炎;3%、脳卒中;0%、不明・その他;17%であったのに対して、医療機関のそれでは肺炎;54%、心疾患;14%、脳卒中;13%、悪性腫瘍;7%、老衰6%、不明・その他;6%と老衰と肺炎が完全に逆転する。日本医師会の「終末期医療、ACP(advance care planning )から考える」によると終末期にいたる軌跡は急性型(突然の死)、亜急性型(がんなど)、慢性型に分類される。慢性型はさらにorgan failureとfrailtyの二つに分けられ後者は老衰の典型と考える。そこで、この特養を利用された人について死因統計を根拠に、独断と偏見からこれこの分類を当てはめてみた。すると施設または医療機関で亡くなられた方の89%は慢性型で、しかも全体の57%がorgan failure、32%がfrailtyとなり、organ failureがfrailtyの1.8倍もあることがわかった。
すなわち老衰=frailtyとすれば、特養での自然死はおおよそ全体の3分の1くらいに留まり、何らかの臓器不全により亡くなるほうが多いことになる。独断と偏見なので信憑生についての保証はないが、このためなのだろうか、特養利用者における医療面での妥当性・正当性の判断は、いつも感じていることだが、手ごわくて迷うことが多いのだと思う。最近は、特養とは入所者の生活を支援する場所だから、精一杯生活を支えることが社会的な役割であると割り切って、その延長線上にあるものが自然に選択されればそれでよいという世界観を大切にして、看取りの場所にはあまりこだわらない仕事の仕方に努めている。
( 注1;山形西部地区包括支援センター、注2;特別養護老人ホーム菅沢荘 )
追記:やっと脱稿ができて安堵していたところに、7月の西日本の豪雨災害で甚大な被害が発生したとの報道があった。犠牲になられた方々を心より追悼するとともに、猛暑の中で被災地となった地域の一日も早い復旧と力強い復興を祈ります。~